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日付: 2016年10月16日
場所: パウティッシュ峠(Paulitschsattel: 標高1,339m)
地域: オーストリア カルンテン州(Kärnten)
訪問地: Bad Eisenkappel(555m), Bad Vellach, Paulitischsattel(1,339m) Bad Eisenkappel


 


35ユーロとは思えないサービス

 夜中に隣部屋の宿泊客が誤って部屋に入ってくるハプニングがあったが、安眠できた。狭い部屋ながらよく手入れされたホテルである。また、朝食も何人がホテルに泊まっているかはわからないが、バイキング式のしっかりしていた。これは満足である。  

 夕べ、少し風邪気味だった。体調は、今朝になっても完璧には回復はしていない。ただ悪化はしていない感じでなので、まあまあである。  

 天候は、昨日と同様である。雨は降っていない。ホテルの窓から見える山々の遠景には、高度の高いところに霧が覆っている。  

 ホテルに午後まで自動車を駐車場に停めておくことをお願いして出発である。  

 

 


オーストリアとスロベニア国境の峠へ  

   バド・アイゼンカペル(Bad Eisenkappel)の町は、オーストリアとスロベニアとの国境近くに位置している。案内本に寄れば、住民の三分の一は、スロベニア語を話すと言う。国境に繋がる道路(B82)は、そんなに頻繁に行き来するのであろうと思うが、片道1車線のしっかりと手入れされた道路である。

 バド・アイゼンカペル(Bad Eisenkappel)の町はずれに、道標案内がある。この道は、二つの峠に繋がっており、一つは今からアタックするパウティッシュ峠(Paulitschsattel)、もう一つはジーベルグ峠(Seebergsattel)だ。それぞれの標高は1,339m、と1,218mである。バド・アイゼンカペル(Bad Eisenkappel)の町の標高が555m。したがって、今日は、約800mの峠登りになる。体調が不十分な状況での登りだから、まあ適当だろう。



 


だらだら坂からいろは坂へ  

   数キロ登りを走る。傾斜5%程度の緩やかな登りで、この登りなら楽だと思う。道路の周りの景色は、秋色である。残念ながら日本で観られるナナカマドやモミジのような、真っ赤に紅葉する広葉樹はない。黄色に変色した葉をつけた木々が、山肌を包んでいる。

 しだいに登り傾斜が急になる。坂も、右左につずらに折れる道が始まる。本格的な坂との格闘が始まる。



 


岩肌に描かれた宗教画  

   バド・ベラック(Bad Vellach)の集落がオーストリア側の最後の村である。この村を少し過ぎたあたりのカーブに、岩肌を削って平面を作り、そこに巨大な宗教画に出くわした。このように自然物を削って作成した創作物を欧州で観るのは初めてである。なかなかの圧巻である。

 ただ、この宗教画は、野ざらし状態である。何年かに一度は画のメンテナンスのために塗料の重ね塗りをしなければならないだろう。恐らく、骨とお金のかかる作業である。ご苦労様である。

 と同時に、クマ出没注意の看板を見つける。オーストリアとスロベニアの国境のあたりには、まだまだ人を襲う熊が出現するようだ。

 

 


 右に行こうか、左に行こうか  

 8q程走ると、パウティッシュ峠(Paulitschsattel)は左、ジーベルグ峠(Seebergsattel)は右の看板に出会う。地方道のB82は、ジーベルグ峠方面に続いている。パウティッシュ峠(Paulitschsattel)方面に続いている道は、舗装はされてはいるが貧弱な道路である。

 ここで迷う。なぜ迷うかである。まず体調は万全ではない。次に、ジーベルグ峠の標高はたかだか1,218mである。この高さは、ちょっと寂しい。やはり1,339mのパウティッシュ峠に登ってみたい気がする。しかし、パウティッシュ峠へは、距離で8qを走らなければならず、道路状態も荒れている。

 不惑は遠い。初志貫徹である。パウティッシュ峠側の道路を選ぶ。



 


 霧の中に突入  

 目測ではあるが、標高が1,000mを越えた辺りから霧の中を走ることになる。視界は50m程度だ。もちろん周りの景色は観えない。

 とても静かである。遠くに沢を下る水の流れの音がほんの僅かに聞こえるだけである。森の中の静寂とは、こんなことを言うのであろうと考える。行きかう自動車はめったにない。道路のあちらこちらに熊の出没注意の看板を見つける。とても心細い気持ちを感じる。

 もし、仮ににである。ここで熊とバッタリと出くわしたらどうしようと考える。自転車の進む進行方向なら、すぐに引き返して一目散に下り道を逃げるのだろうか。横から熊がでてきたら、リュックからサンマの缶詰を取り出して、それを開封して道に捨てて、一目散に逃げるのだろうか。何とも変なことを考えながら、登り続けた。



 


 下に雲海を眺める絶景  

 標高が1,300mを過ぎたあたりで、霧を通して太陽の姿がうっすらと見えるようになった。想像していたとおり、自分は今、雲海の中にいることを実感する。もう少し、高度を稼げば、晴れ間がみられるだろうと、期待してペダルを踏み続ける。

 角を曲がったところで、見事なアルプスの姿が目の前に現れた。逆光だが、まさにスタイナーアルプス(Steiner Alpen)の山々が眼前に広がる。なるほど、この地域は、まだまだアルプス地域なのだと思う。



 


 峠に到着  

 正午前には、峠に着いた。休み休みではあったが、結局、登り始めてから3時間で到着した。峠の1q手前から、登りの傾斜が緩やかになり、時々、下り道が現れるようになった。最初、一番の高所である峠に国境があるものと思っていたが、そうではなかった。

 国境のオーストリア側にもスロベニア川にも人影はなかった。峠を示す看板と国境警備所の建物があるだけだった。

 スロベニア側には、新築の立派な建物が建っているが、オーストリア側には、臨時のトレナーハウスがあるだけである。これは寂しい風景である。

 国境線から10m程、スロベニア側に入ったところに休憩用のベンチが置かれていた。太陽が顔を出し、風もなく穏やかな時間だ。このベンチに座って、昼食を摂る。パンとサンマの照り焼きである。恐らく、この山奥の国境のベンチに座り、サンマの照り焼きを食べたのは、有史以来、私が最初であろう。



 


 ほんとうの峠  

 国境からの帰り道で、どこが高度として一番高いかを確かめてみた。機械を使うのではなく感覚的にである。やはり、国境から1q程手前のオーストリア側のポイントが一番なようだ。

 ここには何の印も観えなかった。近くに、枯れてしまってはいるが、水飲みが場があるだけである。



 


 下界は秋一色  

 下りは、先週のダウンヒルで凍えてしまった教訓を基に、スキー用の手袋、それにセーターという重装備で、峠からの下り道を降りた。

 これは、正解だった。寒さをまったく感じることなく下界まで戻ってきた。

 日曜の午後の昼下がり。アイゼンカペルの町は、とても静かだ。時間がゆっくり進むというか、このまま、時間が止まってしまうのではないかと錯覚するほどである。自転車に乗って移動するのが、もったいなくなり、自転車を引いて、町を歩いた。