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日付: 2016年9月4日
場所: ウィーンとトゥルン往復(Wien-Tulln) 
地域: オーストリア(Austria)下オーストリア州(Niederöstrreich)
訪問地: Wien, Tulln, Wien


 


日曜日のドナウ川

 9月の声を聴くが、オーストリアは依然、夏の様相である。ウィーン市内を流れるドナウ川は、本流と支流の2つに分かれる。その2つの流れの間に浮かぶのがドナウ島だ。南北20kmの長さで、往復するとちょうど40kmになる。面白いことに、これがちょうどフルマラソンの距離とほぼ同じになる。設計者の粋な計らいか、あるいはタマタマなのだろうか、それはわからない。  

 この島には、天気さえ良ければ、散歩する人々で賑わう。歩く人、ジョギングする人、サイクリングする人などなど、その多様さには驚かされる。サイクリングする人々も、そのままツールドフランスに出場できそうな井出達の人もいれば、ママチャリに毛の生えたような自転車で、唯我独尊のごとく、走り続けるひともいる。一目など、まったく気にする様子もない。  

 今日は、ドナウ川に沿って自転車道を遡上し、30km上流のツゥロン(Tulln)市まで、往復して見ようとおもう。日帰りだ。したがって、身軽な恰好で、午前9時過ぎにアパートを出発する。  

 

 


  オジサン、ちょっとライディングフォームが悪いよ  

   ウィーンから元気よく、走り続ける。距離、20kmを越える。川沿いを走るせいか、若干の向かい風である。水面を渡ってくる風が、心地良い。ウィーンからここまで遠ざかると、さすがに道路上には自転車乗りの姿が大半となる。

 一人、気になるサイクリストが目に付いた。赤い帽子をかぶり、左肩上がりの上半身、ペダルに置く足底の位置も、後ろから見る限り非対称である。このおじさん、私よりゆっくりと走る。ところが、私は時々、停止して写真を撮ることが多いので、結果として、いつも追いつ追われつの関係となる。このおじさん、ラジオを大ボリュームに上げて、それを聞きながら、前を凝視したまま、無心に走り続ける。

 このおじさんの自転車を追い抜いた時に、顔をじっくりと見てみた。驚いたことに、後ろ姿からして70歳台に観えそうな、ヨボヨボの走り方であるが、顔は、どうみても20歳台の若者である。不思議なサイクリストである。



 


延々と続く平らな自転車道  

   川沿いの道から見える景色は、単調だ。アップダウンがないから、走りにメリハリが生じない。結果は、飽きてしまう。トゥロン市が近づくにつれて、なぜか、年老いた夫婦で、ペアで走るサイクリストが目に付き始める。この人々、川沿いに時々みかけるカフェ店で、ゆっくりとビールなどを飲んでいたりする。人生は、こうやって楽しむものかと考えさせられる。

 時折、大型の遊覧船がドナウ川を下っていく。船の屋上展望テラスには、たくさんのテーブルとイスが並んでいる。そこに座っている人々も、たいがいは、見た感じ、年寄りばかりである。老人がこの世を楽しめる国は平和だ。なにげなく、さも自然に過ぎ行く時間を過ごしているだけだろうが、なぜか、彼らの姿からは落ち着きの後光が射している。    

 

 


行く川の流れは絶えずして  

 川沿いの道を走りながら、変なことを考えた。21世紀の今、地球上には70億の人間が生きているとのことだ。非常に大雑把な計算をしよう。仮に、生まれて70年で死ぬとしよう。そうすると、70年で70億人が入れ替わるわけだから、1憶の人間が、毎年死亡し、毎年生まれることになる。一日にすれば、約30万人が入れ替わっていることになる。毎日、30万人がこの世を去っていく。ドナウ川の水は、毎日流れ続けるのに、水は変わっていく。そんなことを考えながら、走り続けた。



 


茶屋でお昼

   午前11時過ぎには、トゥロンの町に到着した。2時間ちょっとで、35kmの距離を走ったことになる。このスピードは、私にとっては驚異である。かなりハイギアで、ペダルを蹴ってきたので、太ももに若干の張りを感じる。救いは、帰りは追い風なことだろうか。  

 空いているカフェ店の席に座る。ウェイトレスが、何を注文するかときく。大ビールとクロワッサンを一つお願いと注文する。

 ジェッキーは結構、大きい。まあ、今日は、自動車を運転しないから、OKである。ただ、ウェイトレスが持ってきたクロワッサンが、あまりに寂しく貧弱なのである。これはスーパーで袋詰めにして売っている出来合いクロワッサンで、これには興ざめである。



 


日曜のカフェ店はサイクリストの天下  

   日曜日なのに、街の中心街のカフェは開店している。時間的にお昼に近いせいか、テラス席には、多くの人が食事を楽しんでいる。

 自転車を横に置いて、食事する人々もいる。姿恰好からして、一目でサイクリストの様相である。この人たちの食事内容を横目で観察してみる。ワインを飲みながら、肉を貪り食っている。そんなに飲んで、自転車の運転は大丈夫なのと言いたくなるが、それは自己責任の世界。店のウェイトレスも含めて、誰も何とも言わない。



 


頑丈な鉄橋を渡って、対岸の自転車道へ、  

   時刻は、午後1時。遡上した道をそのまま下るのも面白くない。と言うことで、対岸の別の自転車道を走ることにする。  

 ドナウ川を渡るこの鉄橋は、ずいぶんとしっかりしている。複線の鉄道、片道1車線の道路、自転車道、歩道とありとあらゆる交通手段に対応している。まさに、交通の大動脈である。鉄橋桁も、しっかりと手入れがされて、錆一つ見えない。この手入れさには、脱帽である。オーストリア人の根っからの実直さを肌で感じることができる。



 


昼下がり、強烈な太陽光線  

   今朝は、そんなに日差しが強くならない一日だろうと読んだ。この読みは外れた。夏の間は紫外線を恐れていつも長袖シャツを着て走る。ところが、今日は、半そでシャツのまま来てしまった。日焼けが怖い。この年齢になって、強い紫外線を浴びたら、肌がボロボロになってしまうのではないかと危惧する。  

 北岸のドナウ川は静かだ。北には、鬱蒼としげるジャングルが広がる。土手沿いの自転車道には、時折、サイクリストが走る抜けるが、格段に南岸と比べたら、数は少ない。川面の波に、太陽光が反射する。それが揺れる。まだまだ夏は続きそうだ。